マンションの長期的な価値と快適性を維持する上で、大規模修繕は避けて通れない重要な取り組みです。しかし、多くのマンション管理組合にとって、この大規模修繕を計画し実行する過程は複雑で、修繕計画の立案から資金調達、業者の選定に至るまで、管理組合が把握しておくべき知識は山積みです。このコラムでは、マンション管理組合が大規模修繕に臨むにあたり、知っておくべき基礎知識と実践的なアドバイスをご紹介いたします。
大規模修繕とは、経年に伴い劣化したマンションの建物や設備を定期的に修繕することです。小規模なメンテナンスはこまめに行っていますが、外壁塗装や配管交換、防水工事といった大掛かりな工事を大規模修繕のときにまとめて行います。
大規模修繕は法的に定められている?
大規模修繕工事は法律で明確に義務付けているわけではありませんが、マンションの適切な管理と維持を促進するための法律が関連しています。特に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)と「建築基準法」が重要です。
●マンション管理適正化法とは
2001年8月1日に施行され、分譲マンションの増加による居住形態の変化や、既存するマンションの老朽化などから、住みやすい居住環境を確保するためにマンション管理適正化法は作られました。マンションは資産価値としての重要性も高まっており、徹底した管理を行うことが求められるようになったことも、法律が施行された理由の一つです。
●建築基準法とは
建築基準法は1950年6月25日に施行されました。建物の安全と品質を確保するために設けられている法律です。この法律は、新しい建物の建設はもちろんのこと、既存建物の維持・改修においてもその安全基準を遵守することを求めています。大規模修繕においても、この法律の規定が重要な役割を担います。
何年周期が望ましい?
大規模修繕工事は12年から16年程度の周期で行われるのが一般的とされています。建物が置かれている環境(海辺で塩害がある地域、雪国など)や、建物の利用度によって修繕の必要性が変わることがあります。
●12年周期が多い理由
12年周期が多い理由のひとつに、建物に使用されている塗料や防水材などの性能が低下してくる時期、かつ過去の大規模修繕工事で補修した箇所の保証期間が切れるタイミングを見越して設定しているということもあります。
実際にマンションの大規模修繕工事の流れをご紹介いたします。近年では、マンションの規模によって大規模修繕の流れは大きく2つあります。
①大規模なマンション
大規模なマンションの場合は、管理組合の中に有志の「大規模修繕委員会」を発足させて進める形式が多くなっています。
②中規模以下のマンション
中規模以下のマンションでは、マンションの管理組合の運営主体となる「理事会」が主導し、委託しているマンション管理会社と相談しながら進める形式が一般的です。
今回は①大規模修繕委員会を発足した場合の大規模修繕の流れを、8つの過程に分けて解説します。
STEP01:大規模修繕委員会を発足する
大規模修繕計画にある予定時期の数年前から、マンションの管理組合が大規模修繕委員会への参加希望者を組合員に向けて募ります。
STEP02:現状把握・劣化診断
大規模修繕工事の実施にあたり、工事範囲や工法選定のためにマンションの劣化状態を調査します。
STEP03:予算・工事計画の検討
総会で大規模修繕工事実施の決議をとるために概算予算を検討します。
STEP04:施工会社の選定
複数の会社から見積もりを提出してもらい、施工会社の選定に移ります。
STEP05:総会で決議
大規模修繕工事についての概要が決まったら総会を開催します。共用部分の変更をともなわない大規模修繕工事は過半数決議で承認できることになっています。
STEP06:工事説明会の実施
総会で決議が取れ、正式に施工会社に工事を発注したら、組合員や居住者に向けて工事説明会を開催します。工事開始の約1か月前に行われることが多く、工事の概要や注意点などを丁寧に説明します。
STEP07:契約・着工
大規模修繕工事の契約締結後、大規模修繕工事が実施されます。工事中は大きな音がしたり、多くの作業員や工事車両が出入りしたりと生活環境が普段とは異なるため、居住者へ向けた広報活動を欠かさないようにしましょう。
STEP06:工事完了・引渡し
工事の完了を確認し、引き渡しを受けます。竣工時に受け取る「竣工図書」は、マンションを維持管理していく上での重要な記録です。大切に保管しておきましょう。
大規模修繕委員会とは、マンションの居住者で構成された、大規模修繕工事を進めるチームのことです。修繕委員会の選定には年齢制限や人数の定めはありません。メンバーが集まらなくても大規模修繕工事を行うことは可能ですが、管理会社主導で工事を進めることになり、住人全体の希望が修繕に反映されない恐れがあります。
大規模修繕委員会メンバー募集方法
修繕委員会は一般的に5人〜10人程度の委員で構成するマンションが多いですが、多数決を取る時に備えて、メンバーは奇数で構成することが望ましいでしょう。
●一般的な募集方法
・エントランスの掲示板などで居住者から有志を募集する
・階ごとに代表者を数名選出する
・公平性を保つために幅広い年代から委員を選出する
修繕委員会でできないこと
修繕委員会には、大規模修繕工事に関する決断を下す権限はありません。あくまでもマンションの区分所有者で構成された管理組合の下部組織のため、業者の選定などに対する最終的な判断は理事会が下します。
資金調達方法
大規模修繕工事の資金には修繕積立金が充てられます。
●修繕積立金の徴収方法
・「均等積立方式」…予想される修繕金の総額を耐用年数で割り、最初の月から実際の修繕時期まで、変わらず一定の金額を回収する方式
・「段階増額積立方式」…新築当初は修繕積立金の金額を低く設定しておき、段階的に増額していく方式
●修繕積立金が足りない時の対処法
積立金が不足している場合には対応策を検討しましょう。
1.工事内容を見直す
2.大規模修繕の時期を少しずらす
3.住民から一時金を徴収する
4.融資を受ける
上記の対策はどれか一つを実行するのではなく、組み合わせることで円滑に資金調達ができるケースもあります。
マンション大規模修繕には、建物の定期的な調査と維持計画の策定が必要です。実績と信頼の椎名創建では計画段階からサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。